大判例

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東京地方裁判所 昭和27年(行)171号 判決

原告 池田鐸郎

被告 東京国税局長

一、主  文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、「被告が昭和二十七年五月三十日、訴外久保谷唯三に対する昭和二十三年度分並びに昭和二十四年度分所得金額の更正をなさないとした処分を取消す。」旨の判決を求めると申立て、請求の原因として、

「原告は昭和二十四年十一月二十五日訴外広島国税局長に対し、訴外久保谷唯三が昭和二十三年度分所得税百八十九万三千五百円、取引高税十三万五千円、昭和二十四年度分所得税七十三万三千五百円、取引高税六十万円の脱税をして居ることを所得税法第五十四条に基き第三者通報した。広島国税局長は右の処理を被告に移送し、被告は昭和二十七年五月二十三日久保谷唯三に対し、昭和二十三年十月より昭和二十四年十二月までの間の取引高税を百九万二千二百七十四円と決定したが、同年五月三十日久保谷唯三に対する昭和二十三年度分並びに昭和二十四年度分所得金額の更正はなさない旨決定し、これを原告に通知して来た。

けれども久保谷唯三は昭和二十三年度分所得金額六万二千五百円、昭和二十四年度分所得金額三十万九千五百円とされて居るのであるが、右所得金額中には被告が決定した取引高税百九万二千二百七十四円から算出される取引高一億九百二十二万七千四百円の取引より生ずる所得は算入されて居ないのである。右取引による所得は右取引高の少くとも三パーセントであると認められるから、久保谷唯三は右六万二千五百円、三十万九千五百円の所得の外に、昭和二十三年度並びに昭和二十四年度において、合計三百二十七万六千八百二十二円の所得があつたものである。従つて被告が久保谷唯三に対する昭和二十三年度分並びに昭和二十四年度分所得金額の更正をしないとした右処分は違法なものであると言わなければならない。

ところで所得税法第五十四条の第三者通報の制度について見るに単に租税の賦課徴収について誤りなきことを期すると云う当然の要請は特に所得税法第五十四条の規定を俟つまでもなく民主々義そのものからしてすでに要求せられるものであるから同条の趣旨をその当然の事理を定めたに止まるものと解すべきではなく、更に一歩を進めて第三者通報があつた場合には、政府としてはその通報者に対する義務として、その通報の趣旨に従い調査をなしその結果に基く処分を通報者に通知しなければならないものと解すべきである。さもないと通報者の報償金を受くる権利は賦課、徴収担当公務員の故意又は過失のある行為によつて、全く有名無実に帰するであろう。従つて被告のなした右決定は単なる内部的意思決定たるに止まらず、第三者通報者としての原告に対する義務としてなされた一の行政処分であつて原告は該処分によつて第三者通報者として報償金を受くるの期待権を侵害されたものである。よつて原告は被告のなした右決定の取消を求めるため本訴に及んだものである。」と述べた。

被告指定代理人は、請求棄却の判決を求め、

「原告主張事実中、原告がその主張の通りに第三者通報をなし、該事案の移送を受けた被告が取引高税について原告主張の通りに更正をなし、所得金額について原告主張の通りの決定をなしこれを原告に通知したこと及び久保谷唯三の昭和二十三年度分並びに昭和二十四年度分所得金額がそれぞれ原告主張の金額とされて居ることは認めるが、その余の事実は否認する。右所得金額はいずれも相当なものであるのみならず被告のなした右決定は単なる行政庁の内部的意思決定にすぎず原告にこれを通知したのも念の為になしたものにすぎないのであつて行政処分ではない。従つて原告の本訴請求は失当である。」と述べた。

三、理  由

原告が昭和二十四年十一月二十五日広島国税局長に対し、久保谷唯三の昭和二十三年度分所得税百八十九万三千五百円、取引高税十三万五千円、昭和二十四年度分所得税七十三万三千五百円取引高税六十万円の脱税をして居る旨所得税法第五十四条による第三者通報したこと、これに対し、該事案の移送を受けた被告が昭和二十七年五月三十日久保谷唯三に対する昭和二十三年度並びに昭和二十四年度所得金額の更正は為さないことを決定し、これを原告に通知したことは当事者間に争がない。原告は被告のなした決定は違法な行政処分であるとしてその取消を求めて居るが右の如き行政争訟の対象たり得る行政処分とは行政庁の行為の中、その対象となつた人に対して一定の権利を附与し、若くはこれを剥奪し、又は義務を課し若くはこれを免除するものに限られるものであるから、被告の右決定が右に述べた処に該当するか否かについて判断すると、元来租税の賦課、徴収担当行政庁は法令の定むる処に従い、過不足なく適正に租税を賦課、徴収すべきものであり、所得税法第五十四条の所謂第三者通報は、右の適正な租税の賦課、徴収のために、一般国民より任意の資料提供を俟つものであつて、報償金交付の制度は単にその資料の提供を促進せしめるための手段に止まるものと解するのが相当である。従つてその第三者通報即ち資料の提供があつたからと言つて、租税の賦課、徴収担当行政庁が当初から負つて居る適正なる租税の賦課、徴収をなすべき義務に何物をも附加するものではなく、第三者通報をなした者に対し何等かの義務を負担するものでもない。第三者たる通報者に対して交付される報償金は上叙政策的、便宜的のもので理論上必ずこれを交付しなければならぬものではない。所得税法第五十四条第一項によればその報告に基いて更正若くは決定がなされそれによつて徴収することのできた金額の中一定額の金員を報告者に報償金として交付することができる旨定められて居り、その規定よりすれば、右報償金は課税、徴収担当行政庁が報告者に対する義務という関係においてではなく担当行政庁として負つて居る責務に基いて為した処分の結果税金を徴収し得たと言う結果に基いて交付されることのあるものにすぎないから、報告者はその報告に基いて更正若くは決定の行われて居ない状態においては右報償金を求める如何なる権利も有し得ないものと言わなくてはならない。(もとより報告者において徴収し得た暁、報償金の交付を受けることがあると言ふ事実上の期待はあるであろうが、それは法律上の権利とは言い得ない。従つて原告の主張する通りに、課税、徴収担当行政庁を構成する公務員が故意又は過失により適正額以下の賦課、徴収をする場合も考えられないことではないがかかる場合にも、これにより何人も個人としての具体的権利を害されるものではなく、他方その公務員に対しては公務員としての責務に反するものとして刑事上若くは行政監督上の処分を以て臨み得るであろう。)従つて被告のなした右決定は第三者たる通報者としての原告の権利義務に変動を生ぜしめるものではなく又久保谷唯三に対し義務を免除するものでないことは明らかであるから、これを以て前記の意味における行政処分とすることはできない。従つて原告の本訴は取消さるべき対象たる行政処分が存在しない不適法のものと言う外はない。

よつて原告の本訴を却下し訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 毛利野富治郎 桑原正憲 山田尚)

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